□ 河内近郊「やさしい楠の下で」


長い体調不良が続く。リハビリと体力回復をかねて近所を歩く。
私が住む中河内(なかかわち)は物部氏、弓削氏、聖徳太子等古代からの歴史がひっそりと重なるところでもある。


恩智神社の鳥居を右へ。旧家の多いのんびりとした緩い坂道を右へ、右へ。
私はこの八尾へ移り住んだころ、ほぼ毎日、ある武将のお墓に参らせていただいた。「恩智左近満一公」である。


前述の恩智神社の社家の出であり、地元中河内の豪族にして、楠正成公が八臣の一人である。彼が楠公とともに南朝を守り転戦したことは、太平記を読んだり見た方ならご存知かと思う。


私はいつもそうなのだが、そこを目指して行くということが少ない。歩いていると、吸い込まれるように、そんな場所へ入って行く。駒札や、石碑を読み「これは、失礼をいたしました」と初めて手を合わせ頭をたれる。



大きな楠があたかも恩智左近の墓を包むように立っている。この季節になるとここへきて新緑の風を感じるのが好きだ。楠の下はどうも落ち着く。これは、物心ついたころ、以前住んでいた土地に通称「楠公(なんこう)さん」という小さな森(現在はJR島本駅)で母に手を引かれて座った楠の下に似ているからかも知れない。


そして移り住んだのが八尾で、ここが楠公さんの要臣、恩智左近公のお膝元だったことには何か縁を感じずにはいられなかった。



話を恩智左近の墓へ戻そう。
これは以前から気づいていたのだが、何故かその日は、突然もっと知りたいと思った。公の墓の左脇にある16基の墓石。それらは明治初期に西南戦争へ行った地元の若者達の墓である。


皆、一様に「大阪鎮台」「兵卒」とあり明治10年「行年廿○」とまだ二十歳前半の青年である。


あくまでも想像だが、おそらく、彼らは10かそこらへんの年頃に年号が慶応から明治と改められ、それまで戦(いくさ)はお侍がするものだと子供心に、鳥羽伏見の戦いの話を聞きかじっていた程度だったかも知れない。しかし、幕末の機運から維新がなり、この日本が国総出で列強と肩を並べるべく走り出した。各地の鎮台がそのまま旧帝国陸軍の管轄となるまでの一歩、いや、二歩手前に居合わせてしまった時代だったのかもしれない。


私は、その静かな楠の下や、あるいは、フェンスに体をあずけて彼らの墓石に問うように観た。



氏名、出身村、出征地、没所を苔の上から注意して観る。彼らは、平素私が医者へ通ったり、本を買いに行く先の近隣、「志紀」「西弓削」「渋川」「高安」などから官軍に入れられ遠く「日向(宮崎)」、「肥後(熊本)」、「筑後(福岡)」まで行った。


彼らは、西郷隆盛ですら抑え切れなかった不平士族の姿を見て、あるいは、空中で玉がぶつかり合う砲火の轟音を耳にして、いったい何を思ったのだろう?


「明治十年○月、肥後国二俣村ニテ負傷、長崎病院ニテ死ス、行年廿二」
「筑後国鍋田村ニテ負傷、久留米病院ニテ死ス、行年廿三」などはおそらく何らかの手当てを受けて誰かに看取られて逝ったであろう若者もいれば、


「明治十年、三月四日、肥後国、田原阪ニテ戦死、行年廿二」とある。やはり田原坂などは銃・砲撃の苛烈な火力に負傷した友を引きずりだすこともできなかったのだろう。
田原坂での戦死が多い。


しかし、中に一人、「鹿児島県下、上野原・○山ニテ戦死、行年廿五」と刻まれた墓石がある。風化での欠けですべて読み取れないが、おそらく彼は西郷さんが最期を迎えたあの城山公園の付近で、同じく最期を迎えたのだ。



急に風が強くなり、楠の葉がざわめき始めた。私はふと我に返り、恩智左近公と彼ら河内の若者16人に深く頭を下げ、「ありがとうございました。皆さんのお陰でええ国になりましたよ。」と声に出さずに言う。


心からそう言える国になって欲しい、というのが本音だが・・・。


【住所】八尾市恩智中町5丁目付近
【最寄駅】近鉄「恩智駅」下車、西の恩智神社方向へ徒歩15分


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