『不思議譚 第二夜 「あれ、さっき帰ってきたよね?」』

皆さんも学生時代に運動部に入っておられたり、通学が大変だったりしたら、こんな経験って無いですか?
特に猛暑の夏場とか、凍えそうな真冬、兎に角家が遠く感じる。

 私の中学は距離こそ大したものじゃなかったんですけどね、少し山間を切り開いた様な地域でね、急な坂を、夏は大汗、冬はぶるぶる振るえもって、テクテク上ってく。
ようやく坂が終わったと思ったら、公団住宅、いわゆる団地ってやつの最上階の5階、40年も前ですからね、5階建てくらいならエレベーターなんて小洒落れたもんなんて無いですよ。
 だから下校の道のりはと言うと、長い上り坂の後さらに自宅のある棟まで歩いて、最後に5階まで階段を上がってかないといけない・・・。

 勿論、血の気の多い中学生ですから体力は在ったものの、サッカー部と裏部活のボクシングでガッツリ絞られた後の階段のきついったら無かったですよ。
そうなるとね、「あ〜、あと何段で家に着くぞ!」って家に入る瞬間とかを頭に描いて自分に鞭を入れる訳です。
玄関前に立って、ドアノブを回し、靴を脱いで、鞄を部屋に投げ込んで、「さあ〜コーラでも飲むぞ〜!」ってな事まで克明に想像して、えっちら、おっちら・・・。

 夏の本当に暑い日でしたよ、さてやっと本当に家の前に立ってドアを開けた・・・。
するとね、お袋が玄関に立って、きょとんと私を見てる。私の部屋の方向と私を見て、二度見、三度見してるんですよね。
そして言ったんだ、「あれ、今あんた帰って来たよね?」ってね。「いつぅ〜?!」ってこっちはなりまさぁねえ。
「ほんの2〜3分前よ〜」ってお袋が言うしね、変な事言うな〜と思いながらも聞くんです。
お袋によるとね、ほん直前に私の気配がして、いつもの様に下足箱に左手を置く音がして、靴を脱いで、足音が玄関から私の部屋に入ってって、鞄を投げる音まで聞いたもんですから、てっきり私が帰宅したんだと思って、「お帰り〜」って声をかけたが誰も居ない・・・。そこへひょっこりもう一人の私が目の前に居るもんですから、お袋からすれば狐に摘まれたって感じですよね。

 たとえば、戦地に行っているはずの息子が今帰ってきたとかって話を聞きますよね。数日後戦死の報告が来たとかね。作家の色川武大さんの場合だと、学生の頃から他の人に目撃されて、挨拶もしなかったと相手に怒られるんだけど、ご本人には一切そんな覚えもないし、ほかの誰かがちゃんと、「いや色さんは飲み屋のカウンターで寝てたよ」って言う人が居る。なんでもナルコレプシーという発作的に眠りに落ちてしまう症状を持っていたらしく、それについては本人の著書にも、ほかの作家仲間さんの著書にも書いている。

 話が少しずれましたけど、どうやら私の「はよ家に着け〜」っていう気持ちだけが先に帰ってたらしいんですよね。無論、私にそんな念力みたいな事出来ないですし、第一、自覚も無けりゃ、信じてもいない・・・。
ただどうやら、在るらしいんですよ、その人の意識だけが帰りたい、行きたい場所まで行ってしまって、実際に家族や知人に見られてるってことがね。
それ、私自身が逆の立場になって、ある人を目撃したのに、後になって「あれ?おかしいな〜・・・。」なんて事がありましたよ。不思議ですよねえ〜。
まあ、その話は又の機会に譲って、今夜はこのくらいにしておきましょうかね。


『不思議譚2015』
今年も此のきせつがやって来ましたね。今日は、不思議譚の語部、大和川淳一です。
今年のお話し。
第一夜「あっ、」
第二夜「さっき帰って来たよね?」
第三夜「黒い救い主」
第四夜「苺摘み」
第五夜「奥さんそう言う事なんで」
第六夜「手をかしてぇ」
第七夜「青白い顔の若者」
第八夜「Mさんとばったり」
第九夜「引磬と白足袋」

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